紙芝居

熊谷図書館で所蔵している直実・蓮生に関する紙芝居を紹介します。

1.「熊谷出陣」(岡本綺堂原作、酒井天外編、小沢国平画 昭和31年)

1.序幕 熊谷直実の場

一望凄然たる大関東の平野 秩父連山も紅葉にもへる治承四年秋九月であった。源頼朝の挙兵に応じて、敢然立った武蔵国私市党の旗頭熊谷次郎丹治直実は、源家再興の時来れりと勇み喜んだ。

2.出陣近くに迫った夕くれ、突如熊谷の厩を襲った大熊は、直実秘蔵の愛馬月毛の足を傷めて仕舞った。

さすがの直実も暫く途方に暮れました。

直実よりも色を失ったのは馬飼の権太でありました。

熊が厩を襲った時、当の責任者権太は愛人のお杉と楽しく語り合っていたからでありました。

3.権太は、直実の前に罪の裁を申し出ました。直実は命を助けてやる代わりに月毛に代わる名馬を探して来いと権太に命じました。

秩父の馬は小さくもあり、乗心が悪い。殊に畠山の領分である。直実出陣間際に乗馬を探し廻っていると噂されては、無念至極故、奥州の南部か三春へ行けと、二百四十貫の砂金を渡した。権太は必ず月毛に優る名馬を手に入れて帰りますと五日の猶予を願って急ぎ奥州さして行きました。

4.奥州三春 馬市場

 場面は代わって此所は三春の馬市場とあります。
今その馬市で世話方をしている念仏杢右衛門は、以前は至って気の荒い男であったが、馬は生物、それを扱ふ商売は矢張り殺生なものと発心して、今では念仏を口に博労達にいざこざの起つた時、此の杢右衛が納める事に成っている。

斯うした三春へやって来た権太は、月毛に優る名馬は無いかと一心に成って探し廻ったが、これぞと思う名馬には更に出会わなかった。

5.馬市に近き大川端の場

 生きた馬は、いないのかト思はす口をすべらした。  此の言葉を耳にした馬主達は黙ってはいない。早速権太に詰めよった。そうした事を納めるのも世話方の役目である。一方狐塚の馬方源兵衛と云ふ男は自慢の栗毛を引いて来たが誰れ一人話になる様ナ値をつける者が無いので、買い手のないのを怒っています。

6.その栗毛に魅せられた様に成って、ぢつと・・・見詰めるのは権太である。権太は源兵衛に向つて散々に栗毛を褒めた上、是非譲って貰いたいと申出た。自分の物を褒められては誰しもマンザラ悪い気持のする者はなし。源兵衛すつかり上機嫌。折角いい馬を持ちながら価値の分らない者に渡して仕舞うより、お前の様ナ分つた者なら幾分値はまけても譲つてやりたいと云ふ事に成った。値段は四百貫ビタ一文も負けないぞ。

7.権太は四百貫と聞いて驚いた。然し今此の馬を見逃してはもう二度とこんな名馬を手に入れる望みはない。

権太は懐中から二百四十貫の砂金を出して、これは手付けだ、後金は帰り次第主人が払うから、是非とも譲って下さいとすがる様に頼んだ。

8.一方、馬主の源兵衛にして見れば、何所の者とも分らぬ者に半金ソコそこの金で、大切な馬を渡せるものではない。そのまま馬を引いて行こうとする。

9.源兵衛も負けてはいない。馬ドロボウ、馬盗人よと大声に叫びながら権太と組打を始めた・・・。無残権太は集つて来た博労達に縛り上げられ、土地の仕置きに従つて、箕巻にされ川に投げ込まれる事に成った。幸い、念仏杢右衛門の為に救はれた。権太は改めて杢右衛門に向ひドウシテモ馬を手に入れなければ成らない理由を語り始めて、主人直実の名を明かした。スルト意外にも源兵衛は熊谷殿なら譲らうと云ひ出した。狂喜した権太は礼もそこそこ栗毛に跨がるや熊谷までひた走りに走らせた。

10.熊谷館 門前の場

 話しは変つて熊谷館では、待ちに待つた権太の姿は未だ見えなし。近郷の武士は、大方出陣して残るは熊谷の一党はかりに成った。直実は権太の帰りが待ち切れず、月毛に代る馬にて出陣と決した。

折しもあれ遙に近づく馬蹄の響。それを第一に気づいたのは熊谷次郎直実であつた。次が権太の妻お杉であつた。間もなく権太が、逸物栗毛の背に息も絶え絶えに乗りつけた。名馬を眼の当りにした直実の満足は云ふ迄もなく、武将直実は権太の忠節に感じて権太栗毛と名つけ、末代までの亀鏡にすると、勇ましく出陣の途に上つたのであります。

2.「直實公山賊を救ふ」(酒井天外作、小沢国平画 昭和31年)

1.熊谷入道直實が、関東下向の折でありました。

  近江路の山道を通りかかりますと、二人の山賊が現はれた。

  旅の僧・・・一寸マテと御定まりのおどし文句で、刀をぬいておどりかかってきました。

2.山賊の、五人ヤ十人で驚く直實ではありません。
  熊谷カラカラと打笑ひ、それは御安い御用だ。

  路銀はおろか、衣類まで上げるが、その前に、其方にひとつ聞きたい事がある。

3.山賊どもは、熊谷公のあまりおちついた言葉に、今更引込みならず、次の言葉を聞いてをりました。

一體其方どもは、命をかけて山賊を働くのは金がほしいためか、ソレトモ身を立てる道がないので山賊と成つたのか、ソレヲ聞かせろ。

4.山賊は互に顔を見合せて、目を白・・・・・黒。

 實はソノー、食へないため背に腹は代へられず、悪いとは存じながら致し方なく、マーコンナ商売を始めた訳です。

坊さんアンタワ、中々度胸がイイネ。

5.直実は、ソー云ふ訳か、それなれば今日から、こんな商売をやめて、をれについてこい。

  ソースレバ寺の留守居でもさして、此の世を安楽に得さしてやる。

一番、其方とも、思案して見ろ。

6.直實は、持って居た路銀を差し出すと、二人の山賊はドー致しましてと手にもふれず、今から心を入かえキット眞人間になりますから、ぜひ御弟子にして御つれ下さい。

7.入道直實、大いによろこび、ふところより剃刀を取出して二人の山賊の、かみを剃り落とし、坊主にしてしまいました。

8.是より故郷熊谷の草庵に、つれ帰りました。

 此の草庵が、只今の蓮生山熊谷寺であります。

 草庵の原型は、箱田の念佛堂がそれであります。

9.此の山賊の一人を善心坊、あとの一人を法心坊と名づけ、念仏修行怠りなく

目出度一生を、をわりました。

直実山賊を救ひましたをはなしは、之を以て終りと致します。

3.絵本熊谷次郎直実 第一部「日本一の剛の者」

4.絵本熊谷次郎直実 第二部「坊さんになった直実」